奇抜な形状の屋根を持つ、小さくても心地よく暮らせる家
屋根は建物の外観を特徴づける一因であるのみならず、居住性にも大きな影響を与えることもある。チェコの首都プラハのスタジオASGKデザインが設計したこのスモールハウスは、その意味において極めて特徴的な屋根を持っている。
屋根の形状を簡単に表現すると、二つの三角屋根である。向きと傾斜が異なる屋根が折り重なるようにして並ぶことで立体感が増し、人目を引くデザインとなった。奇抜なだけではなく、この屋根はスモールハウスらしからぬ広々とした空間と優れたエネルギー効率をも実現した。
58㎡の建物内は限られたスペースがデザイン性高く演出されている。特にリビングはダイニングとラウンジを兼ねており、家族が集まってゆっくりとした時間を過ごせる。独立した二つのロフトはベッドルームだ。どちらからもリビングを見下ろすことはできるが、反対側のロフトは視界に入らない。屋根の傾斜に沿って天井が低くなっているからだ。それでいて、四方が壁で仕切られていないので、実際の広さよりも空間の広がりを感じることができる。
ロフトにつながる階段は工業用の強固な鉄製。厚みをそぎ落としたフォルムは、降り注ぐ陽光を遮ることがない。
リビングから床続きのテラスは、大きなガラス戸で室外と室内を一体化させ、居住空間をひとまわりもふたまわりも大きく感じさせる。
そして、テラスと屋根の形が相まって、室内のどの空間へも外光が無駄なく行き渡るようになっている。そんな設計からも、この家が太陽光を意識して設計されていることを感じることができる。
そしてさらに、この家は素晴らしいエネルギー効率も実現している。外壁は木材繊維を混合したファイバーボードとミネラルウール製断熱材の組み合わせによって強力な断熱効果を持つ。ファイバーボードが「呼吸」することで冬季でも結露に悩ませられることもない。屋根も同様の構造だが、ファイバーボードが厚い層となり、夏季の暑さと冬季の寒さから居住空間を守っている。さらに窓はすべて3層構造のガラスが使われており、外観からは想像しづらい高い断熱性を保っている。もしも北国や高原に別荘を持つなら、こんなスモールハウスを建ててみたい。
(文=吉田一紀)